家族信託は認知症対策として効果的な手段の一つとされていますが、すべての方において必ずしも必要とは限りません。
家族信託が必要ではないケースにフォーカスしながら見ていきましょう。

デメリットを十分に理解しつつ重要なポイントを踏まえて、家族信託をスタートすることができたら後悔の少ない有効な資産管理につながります。

家族信託って本当に必要なの?

家族信託とは、自身の財産を信頼できる家族や第三者(受託者)に管理・運用を託す制度です。家族信託制度の活用により対応可能となることと、本制度の活用ではカバーできないことがあります。

大きくは下記になります。

■家族信託で可能になること

  • 認知症になった際の財産管理(資産の運用を含む)
  • 相続対策、信託財産の承継
  • 不動産管理

■家族信託ではカバーできないこと

  • 身上監護(入退院手続きなどの代理行為)などの生活支援
  • 信託財産以外の財産についての承継の指定

家族信託と同じような制度で任意後見制度がありますので、本人の財産が預貯金や自宅のみといったシンプルなケースや認知症発症後の身上監護を中心に検討したい場合は任意後見制度が適していると言えます。
家族信託が必要なケース・必要ではないケースについて確認していきましょう。

家族信託のメリット・デメリット

家族信託の制度についてメリット・デメリットは下記のようなことが挙げられます。

【メリット】

  • 認知症による資産凍結回避策として有効
  • 柔軟な財産管理が可能
  • 遺言の代用ができる
  • 不動産の共有問題を回避できる
  • 相続発生時の遺族の負担を軽減できる
  • 二次相続以降の財産の承継方法を決めることができる

【デメリット】

  • 身上監護権がない
  • 手間と費用がかかる
  • 受託者の責任が大きい
  • 家族との打ち合わせが十分にできていないとトラブルにつながりやすい
  • 遺留分を侵害するリスクがある
  • 直接の節税効果にはつながらない

家族信託の最大のメリットは、高齢になった本人の財産を信頼できる家族に託しておくことで、認知症発症後も管理や運用が可能となることです。

逆に最大のデメリットは、身上監護権がないことにより、受託者が血縁の遠い甥や姪であった場合には、本人の代理としての手続きができないことで、生活支援ができなくなるという点です。メリット・デメリット各項目の詳細な解説については、こちらの解説をご確認ください。

家族信託の7つのメリット・デメリット

家族信託が必要ないケース

家族信託の導入が必要ないケースについても具体例をみて確認していきましょう。

信託できる財産がほとんどない

本人の財産が預貯金のみといったケースで有価証券などの金融資産がほとんどない場合は家族信託契約までは不要です。
任意後見制度や遺言により、高齢になった際の財産管理と生活支援、相続発生時の遺産分割についてご本人の意志を示しておくことができるからです。

また、年金受給権、生活保護受給権のようなその権利が本人にのみ帰属し他の人に譲渡できない権利は信託財産にはできません。
年金の受取口座は本人名義に限られていますので、信託口座を年金の受取口座にして信託財産とすることもできません。

すでに財産の名義を変更している

生前贈与等により不動産を含む財産を子供や他の家族にすでに贈与して名義変更も完了しているケースでは家族信託は不要です。
贈与の内容によっては、贈与税が発生する場合がありますので生前贈与によるメリットと、相続発生時の相続税のメリットについては十分な理解も必要です。

不動産の生前贈与や名義変更を検討している場合には、目的をしっかり定め、発生する税金についても理解しておくことが重要です。

親族の仲が悪い

家族の関係において信頼関係がなく、仲が良くない場合には家族信託契約は適切ではありません。
家族信託は本人の財産を「信頼して託す」制度であるため、委託者となる本人と受託を依頼したい家族の間に信頼がない場合は運用困難です。

また相続人となり得る家族のメンバー間に対立がある場合も、財産の管理を任されている受託者の権限への不満や不公平感へとつながることなどが考えられます。

制度の利用において、財産を託す親と子、相続人となり得る親族間の関係および家族信託制度への理解は何より重要です。
法律的には、家族信託の利用についてはその他の家族の同意までは必要ではありませんが、他の家族にも理解を得たうえで手続きを進めることが後々のトラブル回避につながります。

財産管理を任せられる親族がいない

受託者となる頼りになる親族や第三者がいない場合も家族信託の利用には向いていません。
受託者となる人物には、信託財産の管理・運用を行い、信託の目的に従って行動する必要性があることから、高い信頼性と判断能力が求められます。

受託者として資産の管理や運用についてふさわしい人物がいない場合は、金融機関の民事信託を活用することや、親族間の対立や信頼関係がないことで本人の財産管理や身上監護が不安なケースは法定後見制度の利用も検討しておきましょう。

家族信託の受託者とは?

本人が若く健康で認知症の心配がない

本人が若く健康で、認知症の心配がない場合も急いで家族信託を準備する必要はありません。

家族信託を契約することで、財産を受託者の名義に変更することになりますので、ご本人にとっては自由に財産を使用する際に制限が生じます。

家族信託が必要なケース

家族信託の導入が必要なケースについて確認して行きましょう。主に高齢になった際の生活状況をイメージして考えておくと良いでしょう。

認知症による資産凍結の対策がしたい

認知症等により判断能力を失ってしまうと金融機関等は「本人の財産を保護する」という理由で口座を凍結し、家族が代わりに手続きを行うことも困難になります。
認知症発症により、銀行口座からの引き出しや不動産の売却などもご本人の判断だけでは行えず、成年後見制度などを利用しなければ法的に認められません。

家族信託契約により、財産の一部を信託財産にしておき受託者が管理・運用を行うことで、口座が凍結されることなく管理することが可能になります。

高齢になり体が思うように動くなった場合や判断能力が衰えた場合を想定し、生活費を口座から引き出す場合、さらには介護施設への入居の際にはまとまった金銭も必要になりますので、頼りになる家族に事前に相談し計画をたてておきましょう。

介護費用や医療費を家族に負担させたくない

家族信託は、介護費用や医療費の支払いに備えて資金管理を行なっておくことにも有効です。委託者(本人)が大きな病気などにより入院が必要になるケースや一人での生活が難しくなり適切な介護施設の利用が必要になることは誰しも想像できることです。
家族信託契約では、支払うべき医療費や介護費の範囲、支払いのタイミング、金額の上限についても決めておくことも可能です。

介護施設での暮らしには少なからぬ費用が発生しますので、家族信託を設計する際には、介護施設の種類や金額について事前に調査をしておくことも必要です。
また、認知症発症後の平均的な余命の年数などからかかる費用の金額を想定し、信託財産として確保しておけば万一の資金繰りにも対応できますので、ご家族の金銭的負担を軽減することができます。

自宅や収益不動産などを保有している

自宅や収益不動産を所有されている場合も早めに対策を講じておく必要があります。
第一に自宅に関しては、介護施設に入居することになった場合に誰に管理をまかせるか、と言う問題に直面します。
認知症発症後では、自宅を管理すること(火災の保険契約や修繕など)や売却などの法律行為ができませんので、周囲の家族は困難に陥ります。
家族信託を通して、引き継ぎたい家族がいればその親族を受託者にしておくことで回避可能です。

また、思わぬ介護費用が必要になった際も受託者に管理・処分の権限を任せておけば、費用の捻出にもつながります。何よりも、相続発生時の不動産の共有問題について、遺産分割が難航するといったケースを免れます。

第二に収益不動産がある場合について説明します。収益不動産は、賃貸物件から家賃収入が得られる資産ですので、オーナーの判断能力が低下した場合でも家族信託があれば、受益者として収益を受領することが可能になります。信託契約により、物件の管理方法や運営方針を決めておき、収益不動産の将来の相続人を決めておくと安心です。
収益不動産に関しては、相続時の税金の問題も同時に考えておく必要がありますので、計画的に家族信託を設計する必要があります。

自宅と収益不動産は、それぞれの役割が異なります。自宅に関しては、住み続ける人物や売却時の条件、収益不動産に関しては、家賃収入の使途や管理方法について決めておく必要があり、双方相続発生時の相続税と承継先についても想定しておく必要があるでしょう。

孫の代まで相続方法を指定したい

通常の相続では資産の承継先を決められるのは一代のみですが、家族信託では信託契約に基づいて複数世代にわたって財産管理が可能になります。
例えば、祖父母が自分の財産を家族信託し、受託者として子が財産を管理する場合において、祖父母が亡くなった際の受益者の指定を孫にしておけば信託財産からの利益を孫に引き継ぐことが可能となります。

また、孫が成長するまでの教育費用や生活費を信託財産から支払うように指定しておけば財産を渡すことが可能となります。

孫の代に信託財産を引き継ぐには、信託契約の内容をできるだけ詳細に決めておくことが重要です。どの財産を孫が受け取るのか、いつ、どのように配分するのかを決めておくことで後々のトラブル回避につながります。

障害のある子の将来のために備えたい

障害のある子供を将来にわたって支援するためにも家族信託は有効です。親が元気なうちに子供のために財産を確保し、家族信託により管理・運用の仕組みを整えます。これにより、親が亡くなった後でも、障害のある子供の生活や医療、介護に必要な資金を安定して確保することが可能です。子供が成人するまでは親が親権者ですので身上監護(医療や介護、行政手続きなど)の問題は生じにくいですが、成人することにより親権が外れることになりますので後見人についても考えておく必要があります。

また親が高齢になると親の亡き後の心配も生じますので、親が委託者として財産を信託財産に移行して、信頼できる他の家族に受託者を、障害のある子を受益者と指定する信託契約をすることで、子供が安心して暮らせる環境を整えることができます。

【まとめ】家族信託が必要かどうかなどご不明な点は弁護士西田幸広の「この街の相続」へご相談ください。

家族信託の活用においては、財産がない場合や受託者を依頼する親族が見当たらない場合など制度の利用が難しいケースも当然にあります。
また、認知症によりすでに判断能力が欠如している場合では本人の意思確認や契約などの法律行為ができませんので注意が必要です。

家族信託が必要かどうかの状況判断を含め、任意後見や遺言など他の制度についても理解して選択することが重要ですので専門家のサポートを受けることをお勧めします。
弁護士西田幸広の「この街の相続」では、司法書士・弁護士としての経験からトラブル回避を第一に考えたご相談に応じております。